【概要解説】2021(令和3)年3月2日、特許法等の一部を改正する法律案が閣議決定
2021(令和3)年3月2日、特許法等の一部を改正する法律案が閣議決定されました。
法律案の概要を説明します。
1.新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
- 審判口頭審理のオンライン化
審判の口頭審理等について、審判長の判断で、当事者等が審判廷に出頭することなくウェブ会議システムを利用して手続を行うことを可能とするものです。改正特許法案145条6項(実用新案法41条により実用新案法に準用、意匠法52条により意匠法に準用、商標法56条1項により商標法に準用)に定められています。 - 特許料等の支払方法について、口座振込等による予納(印紙予納の廃止)や、窓口でのクレジットカード支払等を可能とするものです。
改正工業所有権に関する手続等の特例に関する法律案14条2項、同法案15条の3に定められています。 - 意匠・商標の国際出願の登録査定の通知等について、感染症拡大時に停止のおそれのある郵送に代えて、国際機関を経由した電子送付を可能とするなど、手続を簡素化する改正がされています。改正意匠法案60条の12の2、改正商標法案68条の18の2に定められています。
- 感染症拡大や災害等の理由によって特許料の納付期間を経過した場合に、相応の期間内において割増特許料の納付を免除する規定が設けられています。改正特許法案112条2項、改正実用新案法案33条2項、改正意匠法案44条2項、改正商標法案43条1項乃至3項に定められています。
2.デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
- 増大する個人使用目的の模倣品輸入に対応し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を意匠権、商標権の侵害として位置付ける改正がされています。Eコマース、越境ビジネスの活発化に伴い模倣品が個人輸入されるケースが後を絶たないため、「輸入」の定義に工夫を凝らすことにより対処が図られています。改正意匠法案2条2項1号、改正商標法案2条7項に定められています。
- デジタル技術の進展に伴う特許権のライセンス形態の複雑化に対応し、特許権の訂正等における通常実施権者(ライセンスを受けた者)の承諾を不要とする改正がされています。訂正審判請求、無効審判手続中の訂正請求に通常実施権者の承諾を要する従来の規定はとかく評判がよくないものでしたが、漸くこの承諾を必要としない方向に舵が切られたものです。改正特許法案127条(実用新案法14条の2第13項により実用新案法に準用)に定められています。
- 特許権等が手続期間の徒過により消滅した場合に、権利を回復できる要件を緩和しています。従来は権利回復が認められるために「正当な理由」の立証を要しており、この規定が権利回復を阻んでいましたが、改正法では「故意に」割増特許料等を納付しなかった場合に限って追納を認めないという方向とすることで、期間を徒過した者への救済の機会を広げています。特許料の追納に関しては、改正特許法案112条の2、改正実用新案法案33条の2、改正意匠法案44条の2、改正商標法案21条に定められています。
3.知的財産制度の基盤の強化
- 特許権侵害訴訟において、裁判所が広く第三者から意見を募集できる制度を導入し、弁理士が当該制度における相談に応じることを可能とする改正がされています。いわゆる日本版アミカスブリーフ(日本版アミカスキュリエ)というものです。改正特許法案105条の2の11、改正実用新案法案30条により実用新案法に準用、改正弁理士法案4条2項4号に定められています。
- 審査負担増大や手続のデジタル化に対応し収支バランスの確保を図るべく、特許料等の料金体系を見直す改正がされています。改正特許法案107条1項、改正実用新案法案31条1項、改正意匠法案42条1項及び62条の21、改正商標法案40条、41条の2、65条の7、68条の30、改正特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律案18条2項表1及び2に定められています。
- 弁理士法の改正により、弁理士制度に関して、農林水産関連の知的財産権(植物の新品種・地理的表示)に関する相談等の業務について、弁理士を名乗って行うことができる業務として追加するとともに、法人名称の変更や一人法人制度の導入といった措置が講じられています。
改正概要へのリンク→法律案概要(meti.go.jp)
新旧対照表へのリンク→新旧対照条文(meti.go.jp)